悪性腫瘍

悪性腫瘍

神経膠腫(グリオーマ)

原発性脳腫瘍のなかには、脳そのものから発生し脳の神経繊維にそって浸み出すようにひろがっていく神経膠腫(グリオーマ)という腫瘍があります。腫瘍の性質によって悪性度が決定され、グレード1から4までに分類されます(WHO分類)。大部分の神経膠腫はグレード2から4にあたり、3もしくは4の場合は悪性と診断します。

膠芽腫の造影MRI画像 トラクトグラフィ―手法
膠芽腫の造影MRI画像。
リング状に造影されています。
トラクトグラフィ―という手法を用いて腫瘍と重要な神経線維の描出をしています。手術の際に大事な線維を損傷しないように注意しながら腫瘍を摘出します。

手術について:

腫瘍があまり機能していない部位にできた場合は手術で完全に摘出することが可能ですが、手足の動きや言語をつかさどっている部位など重要な機能を有している部位に発生した場合には、手術により患者さんの症状が悪化する可能性が高いため、あえて腫瘍の一部を残すことがあります。症状を出さずにできるだけ多くの腫瘍を摘出するため、術中ナビゲーションやモニタリング機器を駆使し、5-ALA(α―アミノレブリン酸)を用いた術中蛍光をおこなったりします。また、言語野近傍のグリオーマに関しては覚醒下手術も行っています。当院では手術中に病理検査(術中迅速)を行い悪性であった場合には、ギリアデルという抗がん剤をしみこませたタブレットを留置します。

腫瘍摘出腔へギリアデルの留置
腫瘍摘出腔へギリアデルの留置しています。

覚醒下手術について:

現在、さまざまなモニタリング機器が開発され、患者さんに麻酔がかかっていても手足の動きや目の機能などを評価することが可能になりましたが、言語だけはモニタリング機器で評価することはできません。したがって、手術の途中で麻酔をさまして患者さんに起きてもらい、お話をしながら手術を進めるのが覚醒下手術(Awake surgery)です。当院では術前より、言語を評価するリハビリのスタッフ、麻酔医や手術室の看護師とコミュニケーションをとっていただき、患者さんが安心して手術にのぞんでいただけるよう配慮しています。

光線力学療法について:

佐賀大学では2020年より光線力学療法(Photodynamic therapy: PDT)を開始しました。悪性神経膠腫をはじめ悪性脳腫瘍に行うことができます。
PDTは、タラポルフィン(レザフィリン®)という薬剤が腫瘍細胞に取り込まれ、腫瘍細胞にレーザー光を当てると、光化学反応を起こして活性酸素が発生し、腫瘍細胞が死滅する反応を利用した治療法です。

手術の前日、患者さんにタラポルフィン(レザフィリン®)を静脈注射します。手術当日、腫瘍を摘出したのち、レーザー装置を装着した顕微鏡から赤いレーザー光を照射し周囲に浸潤している腫瘍細胞を死滅させます。

タラポルフィン(レザフィリン®)は光に反応する薬剤のため、副作用として光線過敏症があります。術後は約1-2週間、強い光を避ける必要があります。光線過敏性試験を行って、皮膚に異常がみられなければ、遮光の程度をゆるめます。佐賀大学病院ではリハビリ室も含め、患者さんが過ごされる部屋の照度を測定し、適切な管理を行っています。

 

 

画像提供元:MeijiSeikaファルマ株式会社

術後後療法について:

悪性に対しては術後放射線と化学療法が必要です。放射線は1日に2グレイずつを30回すなわち約6週間でトータル60グレイを照射します。同時にテモダールという薬を内服してもらいます。これは悪性神経膠腫に対する標準治療になっています。患者さんの状態によって、2013年に新たに悪性神経膠腫に対して適応が可能となったアバスチンという薬も併せて使用します。放射線治療終了後は、外来通院にてテモダールやアバスチンといった薬を投与します。

放射線治療照射野
放射線治療照射野です。
グリオーマは脳の組織に染み入るように浸潤している
腫瘍ですので、広い範囲での照射(拡大局所)を行います。

膠芽腫の治療

腫瘍治療電場療法とはどのような治療?

1.腫瘍治療電場療法による治療をいつ始めるのか?
初発膠芽腫の場合、可能な限り手術で腫瘍を摘出、術後にテモゾロミドを併用する放射線治療、その後テモゾロミドによる維持化学療法、という標準治療が確立されています。腫瘍治療電場療法はこのテモゾロミドによる維持化学療法を開始するタイミングで始めます。2017年12月、一定の基準を満たす医療機関において保険による治療が適用となりました。
再発膠芽腫の場合、可能であれば手術や放射線療法、化学療法などを行い、その後腫瘍治療電場療法による治療を開始します。ただし保険適用外で、自由診療となっています。

2.どこで腫瘍治療電場療法が受けられる?
一定の基準を満たす医療機関において腫瘍治療電場療法が受けられます。当院で治療可能です。

3.腫瘍治療電場療法はどのような治療?
アレイと呼ばれる電極パッド4枚を、頭髪をきれいに剃った頭皮に貼ります。
アレイと本体を接続し、アレイを介して脳内の腫瘍細胞へ電場を印加することによって、腫瘍細胞の分裂を遅延または停止を促す治療法です。
薬と違って電源が入っている間しか治療効果がないので、可能な限りの継続的治療が推奨されます(1日平均18時間以上の使用が目安です)。頭髪が伸びるとアレイと頭皮の間に空間ができ、それが抵抗となってアレイが正しく機能しなくなるため、アレイ交換の度に頭髪をていねいに剃って、交換する必要があります。個人差がありますが、週2回程度交換します。ひとりでアレイを交換するのは難しいので、家族や友人、訪問看護師等のサポートが必要です。治療の概要についてはこちらのビデオを参考にしてください。

4.治療中のサポート体制は?
デバイス・サポート・スペシャリスト(DSS)が24時間体制でサポートします。DSSは機器に関する質問に答えたり、何時間治療を行ったか機器に記録されるログを見て、その情報を主治医に提供したりします。

5.治療を行いながら日常生活を送るには?
治療は自宅で行います。治療しながら日々の仕事や家事を行い、外出や旅行など楽しむことができます。治療の際は頭髪を丁寧に剃ってアレイと呼ばれる電極パッドを貼りますが、ウィッグ(かつら)や帽子などを着用することが可能です。
アレイを貼付したまま飛行機へ搭乗して移動することができますので、旅行などに行くこともできます。

 

注意が必要な有害事象
・腫瘍治療電場療法の主な副作用は、アレイの貼付箇所の皮膚炎症です。臨床試験では、約半数に皮膚障害があったことが報告されましたが、症状はいずれも軽度から中等度のもので、局所的な対応や治療を一時的に中断することで対処できました。
・まれに頭痛、脱力、転倒、疲労、筋攣縮、皮膚潰瘍が起こることがあります。
・海外で実施された臨床試験で腫瘍治療電場療法がテモゾロミドの副作用を増大する事実はありませんでした。化学療法は薬剤が血流を通して全身に行き渡るため、全身の正常細胞に影響を及ぼしえますが、腫瘍治療電場療法は腫瘍を標的とした局所療法で、脳や全身の正常細胞に影響を与えません。

腫瘍を標的とした局所療法で、脳や全身の正常細胞に影響を与えません。

画像・動画提供元:ノボキュア株式会社 https://www.novocure.co.jp/

転移性脳腫瘍

脳以外の部位のがんが脳に転移してきた腫瘍です。近年の平均寿命の伸びとがん治療の成績向上により頻度は増加傾向にあります。治療法としては、手術、放射線治療(全脳照射、定位放射線照射)、抗脳浮腫薬(脳の腫れを抑える薬)などを各々の状況に応じて組み合わせて行うことになります。転移性脳腫瘍の治療は、脳だけでなく、原発性癌に対する治療や全身状態の評価などを考慮した上で治療を選択する必要があります。各科専門医と連携し、ご本人やご家族の希望を考慮した上で治療を進めていきます。一般的に、脳以外のがんの病勢によって予想される生存期間が3か月以内である場合、抗脳浮腫薬が中心となります。生存期間が半年以上見込まれる場合、手術などの治療を選択します。

手術について:

患者さんに対して体力的な負担を強いるため、個別に検討する必要があります。半年以上の生存期間が見込めない場合でも腫瘍によってすぐにも命の危険が迫っており、全身状態が良好であれば手術を行うこともあります。

放射線治療について:

全脳照射とは、転移巣の個数が多数であったり、髄液のなかにがん細胞が入ってしまっていると考えられる場合に行います。現時点で画像でみえない病巣に対しても治療効果があります。定位放射線治療とは転移巣の個数が限られている場合に、脳の限られた範囲に目標をしぼって放射線を照射する治療です。腫瘍が3cm以下の場合に定位放射線照射を行うことができます。

多発する転移巣 多発する転移巣
肺がん患者さん。多発する転移巣を認めます。
3センチを超える大きな病変は手術で摘出し、術後、速やかに放射線治療を追加します。

 

関連リンク

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