神経血管圧迫症候群

神経血管圧迫症候群

神経血管圧迫症候群とは、血管が脳神経を圧迫することにより症状が出現する疾患です。三叉神経痛片側顔面痙攣舌咽神経痛などがあります。これらの疾患に対して薬物治療やブロック治療を行うだけでなく、病状が進行された患者さんには脳外科医ジャネッタが考案した神経血管減圧術(ジャネッタの手術)を盛んに行っております。

三叉神経痛

顔面痛の一つの三叉神経痛は、歯科、耳鼻科などとの境界領域なので、しばしば他の疾患と鑑別が困難です。
神経血管減圧術で治癒できる典型的三叉神経痛の特徴は、

  1. 片側の顔面に起こる激痛
  2. 発作性 痛みの持続は1秒から30秒くらい
  3. 痛みは“針でさされるような”“焼けつくような”電撃様
  4. 会話、食事、洗顔、歯磨きなど顔面の運動で誘発される
  5. 時として数ヶ月から数年の休止期があるが再発する
  6. テグレトールという薬物が効く

などです。

特に神経痛の発症早期は歯痛と紛らわしく、よく似ているので病歴聴取からの注意深い鑑別が重要です。神経血管減圧術による手術治療は、副作用のため薬が継続できない場合や、患者さんの年齢が若く根治治療を希望される場合に行います。手術は耳の後方から毛髪線に沿って切開し、三叉神経を圧迫している小脳動脈を確認し、神経を再度圧迫しないように、血管を移動させます。この手術によって95%以上の患者さんの症状が消失または改善します。

三叉神経痛 三叉神経痛
右三叉神経痛の患者さんのMRIです。右三叉神経(黄色矢印)と血管(赤色矢印)が接触しています。 3次元CTをとると、三叉神経(黄色)に小脳動脈(赤色)が圧迫しています

手術の写真です。

 三叉神経痛  三叉神経痛
白い三叉神経(黄色矢印)に動脈(赤色矢印)が接触しています 三叉神経から動脈を減圧(接触しないように離す)しました。術後、顔面の痛みは消失しました

 

片側顔面痙攣症

顔の半分の筋肉が収縮する(痙攣)疾患で、ふつうは目の周囲から始まり痙攣が口元までおよびます。さらにひどくなると首元の筋肉も痙攣するようになります。痙攣はかならず同時に起こります。ぎゅっと目をつむると痙攣が誘発されます。患者さんによっては痙攣のたびにコトコトという耳鳴りを自覚されることもあります。顔の筋肉を動かす顔面神経に血管があたっていることが原因です。この疾患自体は命に関わるものではありませんので治療は美容的な意味合いをもっています。ただひどくなると痙攣によって目があかなくなり交通事故を起こしてしまったり、人前にでるのが億劫になり精神的につらくなってきます。治療法としてはボトックス毒素治療と手術があります。手術が根本的な治療法です。顔面神経を圧迫している血管を手術で移動させて減圧します。成功率は95%ですが、直後に痙攣が消失する方は約70%で、残りの25%の方は半年から一年ほどかけて消失していきます。

手術の写真です。

片側顔面痙攣症 片側顔面痙攣症
顔面神経の根元(黄色矢印)を動脈(赤色矢印)が圧迫しています 顔面神経に動脈をがあたらないようにします。この症例ではテフロンという人工物(水色→)を挿入しました。術後、顔面痙攣は消失しました

 

舌咽神経痛

顔面痛の中で手術をすれば痛みがとれる疾患として、三叉神経痛の他に稀な疾患ですが舌咽神経痛があります。

症状として激しい痛みが喉から耳にかけてあり、その痛みは刺激で誘発されるため水を飲んだり食事をしたりすることができません。痛む部位が違うのみで、発作性に起こることや痛みの性状は三叉神経痛とほとんど同様です。 この病気は典型的な症状が見られることとMRI検査所見から診断されます。MRI検査では、腫瘍がないことを確認し、舌咽神経を圧迫している血管の有無を調べます。舌咽神経は細く、MRI検査でも描出しくにい脳神経なので、1.5テスラか3.0テスラのMRIで検査することが必要です。解剖学的に高い位置で起こった後下小脳動脈(小脳へ行く動脈の一つ)が舌咽神経を横切って走行する場合は、血管が神経を圧迫している可能性が大きいので、そのよう特徴的所見があれば神経血管圧迫の所見と判断いたします。

治療としては、まずは薬物治療を行います。テグレトールという特効薬を内服してもらいます。徐々に痛みが激しくなるとテグレトールの量を増やしても完全に痛みを抑えることができなくなります。このような段階にいたったら外科治療を行います。

我々は現在まで動脈が圧迫していた12例と腫瘍が存在した1例を経験しました。顆窩経由法という特殊なアプローチで我々は手術しますが、13例、全例で痛みがとれました。手術治療が大変効果的な疾患ですので、激しい痛みで食事などができずにお困りの方は、是非脳神経外科を受診され相談されることをお勧め致します。

手術の写真です。

舌咽神経痛 舌咽神経痛
細い舌咽神経(黄色矢印)を動脈(赤色矢印)がループを作って圧迫しています 動脈を動かし舌咽神経にあたらないようにします。術後、痛みは消失しました

 

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対象疾患案内

機能的脳神経外科
三叉神経痛
片側顔面痙攣症舌咽神経痛
>特発性正常圧水頭症
痙縮(痙性麻痺)