小児脳腫瘍

 小児脳腫瘍

小児脳腫瘍は、小児(15歳未満)に発生する腫瘍のなかでも、白血病などの造血器腫瘍についで2番目に多い疾患です。小児脳腫瘍の組織別発生頻度は高いものより、星状細胞系腫瘍(28.4%)、胚細胞腫(15.6%)、髄芽腫(12.2%)、頭蓋咽頭腫(8.9%)、上衣腫(4.5%)などがあり、これらは小児5大脳腫瘍とも言われています。
頭蓋咽頭腫や上衣腫は比較的良性の腫瘍であり、外科的に摘出することが原則です。我々は上衣腫などの後頭蓋窩腫瘍に対し小脳延髄裂から進入する方法により、より外科的侵襲の少ない手術法を行っています。星状細胞系腫瘍や胚細胞腫、髄芽腫などの腫瘍は、手術による摘出だけではなく術後の放射線治療や化学療法を必要とするため、小児科医や放射線科医と連携して治療を行っています。また小児は成人と異なり、治療後も成長・発達障害などの合併症が見られることもあり、私たちは小児科医と協力しながら外来診療を行っております。その結果、より安全で効果的な治療を行うことが可能となっております。

星状細胞系腫瘍

小児に多く発生する星状細胞系腫瘍として小脳星細胞腫と脳幹グリオーマがあります。 小脳星細胞腫は小脳に発生し液体が貯留するのう胞成分を認めます。WHOのグレードは1で、多くは手術による全摘出が可能であり放射線療法や化学療法を必要としません。脳幹グリオーマは、特に橋(きょう)に多く発生する腫瘍です。残念ながら全脳腫瘍の中で最も治療が困難な腫瘍です。脳幹という生きていくのにとても大事な部分に発生するため、ほとんどの場合手術による摘出は困難で、治療の主体は放射線治療と化学療法になります。

脳幹グリオーマの症例
脳幹グリオーマの症例。
橋にリング状に造影される病変を認めます。
放射線化学療法を施行します。

胚細胞腫

胚細胞腫とは、生殖器(精巣、卵巣)に発生するきわめて多彩な組織像を呈する腫瘍群の総称で、小児の脳にも発生します。組織像としては、胚腫(ジャーミノーマ)、奇形腫(テラトーマ)が多く、それ以外には卵黄嚢腫瘍、絨毛癌、胎児性癌、混合型などが存在します。胚腫(ジャーミノーマ)は胚細胞腫の中で最も発生頻度が高い腫瘍です。 トルコ鞍上部及び松果体部に発生し、下垂体後葉を障害するため抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が低下し、オシッコの量が増加します(尿崩症)。そのため就寝後でも、オシッコをしにトイレに行ったり水を飲むために起きたりします。治療は発生する部位により異なりますが、原則として鼻の穴から進入し、内視鏡や手術用ナビゲーションを用いて腫瘍の一部をとり、病理組織学的診断をつけます。ジャーミノーマは放射線療法や化学療法が効果的であり、あえて腫瘍を全摘出する必要はありません。生検術により組織診断を確定した後、放射線及び化学療法を行います。術後に尿崩症が持続したり、下垂体前葉ホルモンの機能不全などによる成長障害などを合併した場合は、小児科との連携により治療を行っております。

トルコ鞍から鞍上部(黄色矢印)、松果体部(赤矢印)に発生した胚腫 治療後、腫瘍は消失
トルコ鞍から鞍上部(黄色矢印)、松果体部(赤矢印)に発生した胚腫です。生検術で胚腫という組織診断を確定した後、化学療法及び放射線療法を行いました。 治療後、腫瘍は消失しています。

髄芽腫

一般に小脳の正中部、第四脳室に発生する悪性腫瘍です。手術により全摘出するように努めますが、必ずその後、放射線治療及び化学療法が必要です。最近の手術手技の向上や放射線療法・化学療法の進歩により、5年生存率は50~70%です。しかし、治療が難しい腫瘍である理由の一つに、この腫瘍が再発を来たしやすいということが挙げられます。また髄芽腫の特徴は、腫瘍が局所に再発するだけではなく、脳や脊髄を循環する髄液中を浮遊し、種をまいたように脳脊髄に多発性に再発することです。(髄腔内播種といいます。)そのため放射線は、脳及び脊髄全体に照射する必要があります。また、3歳に達する前にこの腫瘍が発生した場合、放射線による成長障害などの副作用が起こるため、外科的摘出術と化学療法を先行させ、3歳以降に放射線療法を行う必要があります。

髄芽腫 外科的摘出術を施行した後、放射線療法及び化学療法
髄芽腫です。
第四脳室を占拠しています。
外科的摘出術を施行した後、放射線療法及び化学療法を行いました。

頭蓋咽頭腫

トルコ鞍上部という所に発生する良性腫瘍です。発生する場所が、視神経や視床下部、下垂体柄などの非常に重要な器官に近く、時にこれらの組織に強く癒着したり、浸潤したりすることがあります。そのため、視力障害や視野障害、尿崩症、また下垂体から分泌されるホルモンのバランスが崩れ肥満症や思春期早発症などの症状が出現します。良性腫瘍であるため、治療は手術による全摘出が原則であり、手術でどれぐらい摘出できるかが最も重要であります。腫瘍が小さい場合は1回の手術で全摘出することが可能ですが、腫瘍が大きい場合、1回の手術では全摘出が困難な場合もあり、手術の進入方法を変えながら(内視鏡的経鼻手術や開頭術)、2回に分けて手術を行う必要がある場合もあります。正常組織への癒着が強い場合は、無理な摘出は行わず、腫瘍を残存させます。この場合、術後しばらく経過観察し、残存腫瘍が大きくなったときには、放射線治療が必要となります。手術後には視床下部の障害により電解質異常がおこる場合があり厳重な術後管理が必要です。

頭蓋咽頭腫の造影MRI 水平断 頭蓋咽頭腫の造影MRI 冠状断
頭蓋咽頭腫の造影MRI 水平断と冠状断です。
尿崩症と視力視野障害で発症しました。
腫瘍はトルコ鞍上部から第三脳室まで強く圧迫しています。

上衣腫

脳の中には、髄液を産生し貯留する脳室という部屋が存在します。この脳室の壁を構成する細胞を上衣細胞といい、この細胞から生じる腫瘍を上衣腫といいます。上衣腫は脳室のどの部分からも生じえますが、第四脳室に好発します。上衣腫は比較的良性の腫瘍であるため手術による全摘出することが理想的な治療法です。そのため腫瘍を全摘出するよう努めますが、手術で腫瘍を摘出した後、腫瘍が発生した部分に局所的に放射線を照射することがあります。その理由として、時に悪性化した退形成性上衣腫である場合があり、この場合は再発する可能性が高いからです。また退形成性上衣腫は髄腔内播種を来たすこともあり注意が必要です。

造影MRI 水平断 造影MRI 矢状断
造影MRI 水平断と矢状断です。第四脳室を占拠するように上衣腫が発生しています。私たちは小脳の正中部を切開せず小脳延髄裂を開き第四脳室内へ進入する小脳延髄裂経由法により手術を行っております。この方法により、小脳正中部を一部切開することにより生じる術後の症状を回避することができます。

 

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